マンガで読むミステリもたまにはいい。

 会社員時代は営業職だったので、電車によく乗った。一番お取引きの大きなお客さまが八王子にあった頃は毎日のように往復4時間近く電車に揺られた。はじめのうちはビジネス書を読んだりもしたが、そのうちマンガ雑誌ばかり読むようになってしまった。
スピリッツ、ヤンジャン、ヤンマが、モーニング。ありとあらゆるマンガ雑誌を買っては網棚に置いてきた。その本は同じような境遇のサラリーマンによってリサイクルされ、私も誰かが読み捨てた雑誌の恩恵にあずかることもあった。
しかし、ある日ものすごい額の雑誌代を網棚に捨てていることに気付き、ミステリの文庫本をまとめ買いして一冊ずつ鞄にいれておくようにした。島田荘司、綾辻行人、有栖川有栖、我孫子武丸、二階堂黎人あたりの新本格から、森博嗣、京極夏彦あたりまで主に日本の現役作家のものを中心に読んでいた。
だから、マンガも好きだし、ミステリも大好きだ。
最近、この頃読んだミステリ作品がよく漫画化されていて自然よく手に取ってみるわけだが、どれもけっこうよく出来ている。
だいたい顔は綺麗に描かれすぎていて、うーん、この探偵がこんなに美形なわけないよなあ、と思ったり、もう誰もが夢中になっちゃう設定の美少女キャラなんかは、うーん、これじゃあ周りの刑事さんたちが盲目的に服従したりはしないんじゃない?とか、まあいろいろある訳だけど、すーっと、ストーリーが入ってくるのがいい。図示化されてなお良いトリックだと思えるのが、いいミステリであると言えなくもない。僕自身はミステリに叙述トリックなるカテゴリーは不要との立場をとっているので、そういうズルができないマンガで表現されているものには好感さえ覚えるのだ。

最近仰天したのは綾辻行人のAnotherの漫画化だが、この小説には文章で書いているからこそ成立するある重要なトリックがある。これ、マンガでどう描くわけ?という興味で読み始めたのだが、読んでみればお見事。漫画家というのもたいしたものだ。

   

数多ある有栖川有栖作品で、僕が最も愛して止まないのが「孤島バズル」だが、この作品のハイライトは、謎解きにあらず。(いや、もちろんミステリとしても極上の出来だが)ふとしたことで主人公の有栖くんとガールフレンドのマリアちゃんが夜の海でボートのオールを流されて立ち往生した際、有栖くんがふと中原中也の「湖上」という詩を暗唱するシーンがあって、またこの詩が本当に素晴らしいわけなのだが、小説を読んだ時は「ええ話やなあ」くらいの感想だったのが、マンガ化されたヤツはもう作画もすんばらしくて、いい歳こいて恥ずかしながら胸がキュンキュンしちゃって、あろうことか作中の架空の人物に激しく嫉妬などしている自分に気がついておおいに赤面したものだ。
極上の恋愛マンガとしても充分成立していると思う。

  

森博嗣作品もけっこうマンガ化されているが、ちょっと厳しい。
なぜなら西之園萌絵というキャラクタ(音引きしないのが森博嗣風)に対する愛読者たちの神聖視は半端ないからだ。彼女の登場するS&Mシリーズは2作品マンガ化されているが、そう言う意味でどちらもおススメできない。小説で読んだ方が100倍面白い。
が、その後書かれたVシリーズは作家が良かったのか(皇なつきさんです)、うまく描けていると思う。
第一作にして代表作である「黒猫の三角」だ。


表紙に見える女の子は「男の娘(こ)」です。登場人物はほとんどみんなキワものです。ストーリィ自体もキワもの。しかしまあ、何度読んでもこの犯人の意外さには痺れる。犯人知ってて読んでも痺れるんですから。こんなものをシリーズ一作目にもってくるのだから、作者ご自身が相当な策士と言っていいだろう。

京極夏彦は「魍魎の匣」が何と言ってもベストワンだと思うが、これもマンガ化されているが残念ながら未読。映画も未見なのです・・
まだまだ読んでいないのがありそうなので、おススメがあったら教えて下さいね。
では今日はこのへんで・・

at 09:37, cafe-giglio,

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三十年の片想いが醒める音

 それは僕にとっては重大な事件だったのです。

中一でオンキヨーのシステム・コンポを買ってもらって以来、常に憧れのスピーカーとして頭の片隅を占めていたJBL Paragon(パラゴン)。
この写真のスピーカーがそれです。一見家具にしか見えない外観。
この筐体の中にアメリカJBL社の人気ユニットが片チャンネル3発で計6発入っていて、そのままポンと置けばややこしいセッティング無しで最高の音が出るように設計されているのです。日本では1965年から1988年まで販売され、最終価格は350万円でした。


社会人時代ずっと東京にいたのだし、たぶん、その気になればいつでも聴けたのかもしれません。
でもそんな必要すらなかったのです。あの偉容が自分の部屋で音楽を奏でているのを想像するだけでよかったのですから。
しかし、札幌にも憧れのパラゴンを大音量で鳴らしているジャズ喫茶があると聞いたら、そりゃあ、行ってみたくなるのが人情というものでしょう。

で、先日行ってみたのです。30年来の片想いの相手に会いに。
ここにはお店の名前も場所も書かずにおきます。いや、もしかしたらこの記事そのものを書くべきではなかったのかもしれません。
その音は、まさに100年の恋も醒める音だったのです。

かかっていたのは、アート・ブレイキーのバードランドの夜Vol.1。天才クリフォード・ブラウンの才気あふれるトランペット。いつもはあくまでもスムースに音楽を紡ぐルー・ドナルドソンのサキソフォンが、これでもかとブロウする。ドライブする。バンドのテンションをどんどん上げていくのが得意だが、ともすれば単調になりがちなホレス・シルヴァーのピアノもここではまったく気にならず、そのままどこまでもいってくれー、と言いたくなる。まさに奇跡の一夜と呼ぶにふさわしい演奏。
その奇跡の片鱗が、そのスピーカーからはまったく聴こえてこなかったのです。
すべての音がひび割れていて、アート・ブレイキーのドラムだけがやたらと元気に聴こえてくる。音のカタマリがどーんと飛んでくる感じ。

大音量で演奏されるジャズを収録したレコードには、その音量の陰に隠れた演奏者の息継ぎの音や、ちょっとした指のためらい、バンドが目を見合わせてエンディングに入る時の一瞬の静寂のあいだに飲んだ息の音なんかがきちんと入っているものです。
しかし、これらの暗騒音を再生してあげるためには、オーディオ機器に愛情をかけてあげることが重要なのだと思うのです。
例えば、それがどんなに優れたスピーカーでもユニットをエンクロージャーに固定してるネジが緩んでいたら、細かい音の描き分けはできないと思います。(そして放置されたほとんどのスピーカーのネジは緩んでいるものなのだ)
オーディオファイルが愛用する高級カートリッジ(レコード針)は、何十万円もするものが多いが、レコード針の寿命は、針の根本を固定している樹脂の柔軟性がどのくらい続くかにも大きく依存している。針先の掃除のたびにアルコールがかかっていたりするとその寿命はぐっと短くなってしまう。何年も同じ針を使っている人も多いでしょう。おそらく針の動きは鈍く、俊敏な音の再現は困難になっているのではないでしょうか。
コンデンサーを使っているアンプにも部品の寿命という問題がついてまわります。

その日聴いたパラゴンの音は、いろんなところに問題を抱えていそうな音でした。

僕は家に帰って、自分の装置でアート・ブレイキーのバードランドの夜Vol.1を再生して、そこにいつもの感動があることに一安心しながら、いつかはこれを買いたいものだ、と思っていた高級コンポーネントのリストが自分の中で急に色あせてしまっているのを感じていました。そして、普及品のレコード針を一年に一度取り替え、月に一度はスピーカーユニットのネジを締め、毎週日曜の朝に真空管の足を磨く今までの生活が作り出してきたこの音が、そして自分に手の届く範囲のメンテナンスで輝きを取り戻してくれるその音が、自分にとっての等身大の音として、とても愛おしく思えてきたのです。

30年来の恋は醒めてしまったけれど、大切なことを教わった気がします。
サンキュー、パラゴン。
そして長い間、夢をありがとう。

at 10:25, cafe-giglio, オーディオ

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果物を美味しく食べていただくための技術。

 一度暖かくなったと思ったのに、また寒い日が続いている札幌です。
たまらず暖房つけちゃいました。
いつまでも春にさえなりきれない札幌に辛抱たまらず、いつもは夏にお出ししているメロンのショートケーキが早くも出てきましたよ。


こういうケーキを作っていて思うのは、やはり時代が変わったんだなあということで、昔話をするとオジさん臭いと言われそうですが、メロンってのは我々の子供時代はご馳走で、メロンが嫌いだなんていう子供は見たこともなかったわけです。
それが今は、「メロンきらーい」という子供は結構います。豊かな時代なのですね。

かくいう私も社会人になって東京で一人暮らしを始めてからは、ほとんど果物を口にすることはありませんでした。
何故かと言うと「面倒だから」
皮を剥いて食べるのが面倒だったんですね。
ところが結婚した人がお菓子を作る人で、仕事柄果物を剥くのがものすごくうまいわけです。グレープフルーツなんか房が綺麗に取れた状態で皿に載って出てきますし、メロンも皮と身が切り離されて一口大の切れ目まで入って出てくるのですから、本当に驚きました。
カフェジリオを開店してからは、無花果があんなに食べやすくなるとは!と驚いた「イチジクのタルト」や、パパイヤの皮にパパイヤのムースを載せた「パパイーユ」などを見て、ああ、なるほどケーキというのは果物を食べやすくする技術なのだな、と得心したのです。

あまり子供には人気の無いメロンショートなのですが、もしメロンを掬い取るのが面倒でメロンきらーい、と言っているのなら、このケーキで美味しさに気付いて欲しい、と思っているのです。

at 10:41, cafe-giglio, カフェジリオ

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かけてきた時間の中からしか生まれてこないものがある。

 過日、ご紹介いたしました「マンゴーとココナッツのムース」も明日で予定数を完売する予定です。お次の新作ケーキはこちら!


「プランタニエ」(フランス語で「春の」、の意)と名前をつけました。
パティシエは今年、バタークリームを極めてみようと思っているらしくいろいろチャレンジしているのですが、今回はラズベリーのバタークリーム。生地はなんとココナッツ果肉を練り込んだダックワーズです。凝ってるなあ。

早速試食。
爽やかでスッキリした味のバタークリームをダックワーズのふわっとした食感が受け止めて、ふむふむと思っていると口の中にココナッツの果肉が残って味わいを変えていく、というなかなか計算高い逸品でありました。
生クリームだとせいぜいチョコレート味にするしかないけど、バタークリームは味を変えていくことに対して柔軟性がありますね。きちんと作ったバタークリームはかえって生クリームよりも軽い。完成度上がってきてると思います。

新しいケーキが出来るたび、素人の私はこれどうやって思いつくんだろうと不思議に思っていました。

ウチの工房の裏にはけっこう大きな書庫がしつらえてあって、かなりの量のケーキ関係の書籍や古い雑誌などが捨てずにとってあって収納されています。
新作を作り始めるとパティシエは、膨大で乱雑な本のカオスから、頭の中のインデックスに従って、何冊かの本を引っ張り出してしばらくにらめっこしていたかと思うと、今度は何かを空中に指で描きだします。おそらくデザインをしているのでしょう。
まだキャリアの浅い頃にはスケッチブックに新しいケーキの設計図をよく書いていましたが、今はエア・スケッチブックでいけるようになったようです。
そしてやにわに計量を始めて、素材を計量して混ぜたり、焼いたりして準備を始めます。
で、素材が揃ったところで今度は、またしばらく腕組み。
こういう小さい規模の商売ではロスは命取りですから、試しに作ってみるということはありません。頭の中で作業手順や仕上がりのイメージを作っているのでしょう。
そしてイメージが固まると試食用の1セットだけ仕上げて二人で食べてみる、という手順です。
このケーキの場合は都合4時間くらいの作業でした。

そのケーキ作りのブラックボックスのスタートはおそらく、長い時間かけて携わってきたケーキ造りの下積みと実務、食べ歩いたお店の味、そして読んできたたくさんの書籍や雑誌の中からイメージとして立ち上がっていくものなのでしょう。見ていると、それはやはりちょっと感動的ですらあります。
かけてきた時間の中からしか生まれてこないものがある。
そうでないものだってあるかも知れないけど、この店ではそういうことを大事にしたいなあと思うのです。

at 21:03, cafe-giglio, カフェジリオ

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僕らの日常は、あくまでも個人的な情熱の中を還流するのだ。

 以前にも書いたことですが、Cafe GIGLIOの名前は、シェフパティシエである家内の百合子の名前をイタリア語読みしたものです。そういうと、「おおー愛妻家ですねえ」などと言われたりするのですが、(そんなことはありませんと言うとまたこれはこれでいろいろと問題がありますのでとりあえず措くとして)パティシエの作りたいケーキの長いリストをカタチにするためにこの店を作ったので、この名前がふさわしいと思って付けたのです。

だから、今日もパティシエは新しいケーキを作ります。
今日のケーキは「マンゴーとココナッツのムース」です。マンゴーもココナッツもジリオではお馴染みの食材です。特にココナッツムースは「カシスココ」という大ヒット商品ですのですでにお召し上がりのお客様も多いことでしょう。マンゴーはシフォンケーキのサンドに使って、こちらもこの時期の定番になっています。
この二つの定番素材をムースに仕上げたのが今回の新作です。

まあ、新作と言っても1ロットのみ作ってお客様の評価の高いものだけ定番化していくということなので、皆様のお目にかかれるかどうかわからないところではあります。
事実このブログに掲載してしまうと数時間で売り切れることが多く、それを見て翌日以降に来たお客様にはほとんど提供できたことがありません。
それにすでに、これヤメたら怒られるやろ、という定番商品がショーケースのかなりの部分を埋めているのでちょっとやそっとのことでは取って替わることはできません。
じゃあ、なんで新しいケーキなんて作るのよ?ということになると思うのですが、これはもう「ケーキを作るのが好きだから」ということに尽きます。
で、私などは本来仕事ってそういう理由でやるべきだよなあ、などと思ったりするのです。

好きなケーキを作って、お客さんが喜んでくれたらこちらも嬉しい。
売れ残ったら悲しい。(食べられる私はちょっと嬉しい。こらー!)
実に健全で、社会と直接向き合っているのに、どこまでも個人的な情熱の範疇で還流していく。これはそういう仕事です。
そういうカフェジリオの毎日が私はけっこう好きなのです。

at 13:38, cafe-giglio, カフェジリオ

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下手くそな営業電話は本当に困る。

  私は前職で18年の長きにわたって営業に従事してきたので、他人から営業を受けるとその営業マンが、どんな教育を受けて来たのか、また最終的にどんな着地点を目指して話しているのかが透けて見えてしまう。
だからこそ本当に下手くそな営業電話にはムカつく。

今日のはメールマガジンシステムの売り込み。ハナから関心がないので、「そういうのはやりませんので」と言うと、「広告には関心がないということですか?」と聞くので、そうだというと、「このシステムは広告ではありませんので・・」ときた。
そもそも「広告」をテーマに持ってきたのはそちらではないか。
営業をする時は決して相手の言葉を「否定」してはいけない。
この営業パーソンの語る言葉は、売ることより論破を目的とした営業トークだった。ロープレをやりすぎた人特有の症状だ。もちろんぴくりとも買う気にはなれない。時間の無駄ですね、と言って電話を切った。

結局その電話で私が得たものは何もなく、失ったものは時間と心の平静だ。

電話を切って冷静さを失った私の頭の中に、前職の尊敬する大先輩が教えて下さって、その後私の営業の基本姿勢となった言葉がぐるぐると回っていた。
「お客様がウチの商品をやりたくない理由はたくさんあるだろう。そしてそれをすべてひっくり返しても議論に勝つことで、顧客の購買意欲は殺がれてしまうだろう。どちらにしてもいいことはない。それよりもたったひとつの「やりたい理由」を作った方が早い。お互いが共有する目標だって持てるし。」
先輩、あれは本当に正しいですね。
身を以て経験しました。

at 10:16, cafe-giglio, カフェジリオ

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売れ残ってくれんかなあ、と願う不届きな店主をお許しください。

 当欄にて以前、バタークリームの桜ロールケーキを紹介しましたところ、そのケーキを求めて多くのお客様にお越し頂いたのですが、件のケーキは当日の午後3時ごろまでに全数完売しており、ご期待に添えずまことに申し訳ありませんでした。以前もこんなことがあって、以来ブログでの商品紹介は禁じ手にしていたのですが、あまりに美味しかったので禁を破ってご紹介してしまった報いですね。まあ、でもこれに懲りずに「おお!」と思ったケーキは時々ご紹介していきたいと思います。いらっしゃった時にはそのケーキはすでにない、という公算は大きいのですが、どのケーキも自信作ですし、何かしら新しいものを置くように努力しております。
ちなみに現在は、これ。(ってさっそく紹介しとるがな!)
(クリックで拡大画像になります)

「チーズとレモンのババロア」です。
スフレチーズ、ニューヨークタイプ、クレームダンジュと様々なチーズ系ケーキを出してまいりましたが、これはレモンまで加えてどこまで酸っぱくするの?というストロング・チーズケーキマニア向けかと。私は大好きです。売れ残れば食べられるのでいつも、残らんかなあ、と願っているのですが売れ残りません。もちろんいいことなのですが。

北海道にも桜前線がやってきてくれましたので私どもの桜系ケーキもここらでお役御免。また来シーズンにお目にかかります。新しい桜系ケーキをご用意いたしますので来シーズンのそちらもお楽しみに。


※追記:このブログアップ後約1時間で、「チーズとレモンのババロア」も完売となってしまいました。やっぱりここには書かないほうがいいのかしら・・・


at 12:52, cafe-giglio, カフェジリオ

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桜とチーズムースのロールケーキ(季節限定)が新登場っす。

 もうすぐ、というようりはやっとのことで札幌にも桜前線が届くようです。日本列島を桜前線が横断していく時期、桜を使ったケーキを出すのが通例になっていますが、今年はさくらゼリーから始まって桜のシフォン、桜と剥き栗のロールケーキと来て、いよいよ(たぶん)シリーズ最終作「桜とチーズムースのロールケーキ」を戦線に投入しました。


桜の生地にチーズムースを巻き込んであるのは名前通りなのですが、表面をバタークリームで覆ってあるところが今回のミソでしょうか。
大昔のことですが、某F製菓さん謹製のバタークリーム・ケーキを誕生日に戴いたことがあります。こってりした食感で、これはこれでウマいな、と思ったものですが、今朝試食したこのバタークリームは!!
ふんわり軽い食感で、あっさりした甘さ。よく知っているバタークリームとはまったく違うものでした。
あーびっくらこいた。
Cafe GIGLIOではたくさんの量を作らないので、ブログなどで紹介してしまうとあっという間に品切れになってしまうため、告知はせずにこっそり作って、いつも来ていただいているお客様に召し上がっていただく、という方式をとらせていただいているのですが、あんまりびっくりしたので世界中の皆さんにこの驚きをお伝えしたくてつい書いてしまいました。

ついでにここ最近のニューフェイスで、好評につきレギュラー入り寸前のメンバーをご紹介しておきましょう。


はい、ギモーブですね。
近隣のPTAのバザーなどで買っていただいたお客様もいらっしゃるかと思います。あれはもう作らないんですかー、の声が最近大きくなってきたので、また試験的にラインナップに入れていますが、コンスタントに売れるようになってきました。
ギモーブは、マシュマロのフランスでの呼び名ですが日本のスーパーで袋に入って売っているマシュマロとは似て非なるものでありまして、なぜ今までラインナップ入り出来なかったかというと、
お客様:「ギモーブって何ですかー」
ジリオ:「マシュマロのことですよ」
お客様:「えー、マシュマロ嫌いー」
という会話が繰り返された結果です。
一度食べていただければ、違いがわかると思うのですが、サンプル費用などをかけて価格転嫁しないという経営方針なので、そう言う場合はすっぱり諦める訳です。他に作りたいものもたくさんありますしね。
今回の場合は、バザーなどでセットに入っていたものを気に入っていただいた方が声を上げてくださったので復活できたわけで、本当にありがたい話です。

さて、最後にこれです。


ドイツの伝統的なお茶請け「テーゲベック」です。
ジリオのパティシエは、ドイツのブーランジェリで修行していたので、ドイツの焼き菓子のレシピをいつかやりたかったのです。
これは、普通のクッキーに見えますが、1-2-3 Rezept (アインス・ツヴァイ・ドライ・レツェプト)という砂糖と バターと粉を1:2:3の割合で混ぜて作る生地=Mürbeteig(ミュルベタイク)を焼いたもの。口の中での崩れ具合が絶妙で、この上なくコーヒーや紅茶に合うのです。

これも悲運の焼き菓子で、あの「ユーハイム」の缶入りのクッキーアソートにこの名前が使われているので、菓子に詳しい人でも「クッキーの詰め合せ」くらいの意味に捉えられがちなのですね。ユーハイムのものもきちんとミュルベタイグで焼かれているのですが・・
やはり生活に根付いていないものは理解されにくいということなのかもしれません。

そういえば、本来マドレーヌというお菓子はアーモンドプードルで作るものですが、日本ではどこかの菓子店がマドレーヌの型でカトルカールを焼いたものをマドレーヌとして紹介してしまい、今でも混同が続いています。カトルカールはフランス語で4分の4のこと。粉・卵・バター・砂糖を同量ずつ配合するパウンドケーキなどの配合です。
美味しければいい、とは思いますが少なくとも作る側には相応の知識が必要だと思う次第です。
何度も言っていますが、大事なことなので今日も言います。真摯にやっていきたいです。

at 11:06, cafe-giglio, カフェジリオ

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Cafe GIGLIOにレモンティーがない理由

 札幌もずいぶん春めいてきました。
まだ、アイスドリンクの注文が増えるほどではありませんが、「今日は紅茶にしようかな」という方が増える時期です。どちらかというと珈琲は濃厚な味わい、紅茶はさっぱりした味わいというイメージがあるようです。そしてそれは、珈琲の味の中核が「苦味」で、紅茶のそれは「渋味」であるからでしょう。
最初から脱線しますが、よく珈琲の苦味はカフェインの味、という説明をネットなどでみかけますが、カフェインは確かに苦い物質ではありますがほんのりした苦味しかなく、感覚的には珈琲の苦味の10%ほどを担っているに過ぎません。大部分は焙煎で生成するクロロゲン酸分解物や褐色色素群の味が苦味を担っていて、焙煎が進むと生成量が増え、さらに炭化していくため、焙煎が進むほど苦くなるという理屈です。カフェイン自体は焙煎によって微減していきますので苦味への寄与度は減っていくのです。

それはさておき、もうカフェジリオも6年目になるわけですが、紅茶も重要なメニューだと思っていますので、開業前にブルックボンドハウスのティー・インストラクター講座で2週間ほど集中的に勉強して、札幌の紅茶屋さんを回って、一番美味しかった石渡紅茶さんから茶葉を分けていただいて営業しています。
昔は、紅茶、と頼むとレモンにしますか、ミルクにしますかと聞かれたものですが、今は多くの喫茶店で「レモンティー」とか「ミルクティー」とかいう言い方はしないですし、ウチも紅茶の種類で載せています。
さらに、レモン下さい、と言われたことは6年間でたったの一回しかありません。
もうレモンティというメニューは、あまり飲まれなくなっているのでしょうか。
だとすると、勉強中に習ったことで、思い当たることがあります。

紅茶の渋味の主成分は「タンニン」です。
このタンニンは、レモンのクエン酸と結びついて紅茶の色を薄くしてしまいます。紅茶の色は水色(「みずいろ」ではなく「すいしょく」)と言って、味わう際の重要な要素ですので、これが薄くなってしまうのは好ましくありません。レモンを皮ごと入れると、これまたタンニンと結びついて今度は苦味成分を作り出してしまいます。
味も損なわれてしまうのですね。
そんなこともあってか、ブルックボンドのテキストにはレモンティーの「レ」の字も出てきません。
ですので、ジリオでも紅茶にレモンはおススメしていないのです。

紅茶にレモンを入れる習慣は、アメリカのレモン農家が酷暑の農作業中に疲労回復に効果のあるクエン酸を摂取するために冷やした紅茶に入れて飲んだのが起源とされています。冷えていれば苦味も強くは感じないため一般的になり、いつしかあたたかい紅茶にも使われるようになったのかもしれません。中国では、緑茶にレモン果汁を入れる飲み方があったそうで、本家シノワズリー(中国趣味)の伝播者英国と台湾では今でも緑茶にレモンを入れる飲み方が残っているそうです。ただし、英国では決して紅茶にレモンを入れることはなく、ミルクをいれるのが常道です。

紅茶のことは知っているようで知らないことが多く、開業前の修行中に何度も驚きました。紅茶と緑茶とウーロン茶は、同じカメリアシネンシスという植物の葉で発酵の度合いが違うだけ、とか。そのカメリアシネンシス以外の植物で作られた飲料(つまりハーブ茶のようなもの)は茶外茶と呼ばれるとか、ティー・スプーンは茶葉2gの計量にも使えるようにコーヒースプーンより大きいとか、オレンジ・ペコーは紅茶の種類じゃなくて茶葉の大きさの規格だとか・・

こういう食についての常識が、特に飲料について弱いのは、我々喫茶店側が正しいメニューを備えていないことに原因があるのは明らかだと思います。レストランや料亭で料理に勝手な名前をつけて長い時間をかけて先人たちが磨いてきた伝統あるメニューを汚したりしているのを見かけることはほとんどありません。カフェや喫茶店が簡単に開業できてしまうため、充分に勉強していない人が多いということなのかもしれません。
自戒をこめて、真摯にやっていきたいと思っています。

at 14:17, cafe-giglio, カフェジリオ

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不幸なトライアングル

 昨年くらいによく、「食べログ」などの口コミサイトに貴店に有利な書き込みをしてあげますよ、という世に言うステルス・マーケティグの営業メールが届いた。
バカバカしい、と思った。それはただの「嘘」じゃないか。

自分も長い間、広告の世界でメシを食ってきた。
広告は、「広く告げる」と書く。
人は、どうしても自慢したいようなことがある時、広く告げたくなるのだ。
だから広告には、その商品に対する自信とか、それを作り上げた情熱とかを書かなくてはならない、と僕はこの業界の社内外の大先輩たちから教わってきた。

しかし、そういうアプローチが、ともすれば消費者の「まあ広告にはいいことしか書いてないからさ」という不信を生んでいることだって事実だとは思う。しかし、それは「商品が広告を裏切っている」ことがあまりに多いからではないか。だから、ぶっちゃけどうなのよ、という情報を求める消費者の声を求めて口コミサイトが出現してきたのだろう。
そこにまた「嘘」を載せようというのかい。嘘によって進化して行くマーケティングの果てに何があるんだい。

僕はいつも厭な気分でそのメールたちを削除してきた。

このところ、このマーケティング手法を問題視する向きも現れてきて、最近は沈静化していた。
ところが今日になって新手のヤツがきた。

「Yahoo!検索結果画面の虫眼鏡に表示される悪質ワード、2ちゃんねるの書き込み、悪質なブログなど、インターネット上で発生する誹謗中傷や風評被害から企業様を守る対策を専門に行っています。」
と書いてある。
具体的には、
1、検索結果画面の虫眼鏡に表示される悪質ワードの削除
2、「2ちゃんねる」および「2ちゃんねる」コピーサイト等ネガティブサイトの非表示化・削除
3、逆SEO対策
4、悪質サイトへの書き込み者のIP情報・住所特定
をやるのだそうだ。
逆SEO対策ってのはわかりにくいけど、誹謗中傷なんかが書かれたサイトの検索順位を下げるためのサイトを当社で作ります、みたいなことが書かれていた。

ホント、いろいろ考えるよなー、とは思う。
明らかに最近話題のグーグル検索で検索語を補うサービスで風評被害にあったとする訴訟をネタに考えられた営業トークだろう。
ステマに較べて一見まっとうに見えるこの提案も、まったく件のステマと変わらない。
商品の評価を(価値を、ではない)Webを「操作」することで変動させようとするものだからだ。そんなことに使われるコストが商品の価格に反映されるとしたら、それこそが「被害」だ。
自社商品への愛着や、それを作り上げてきた日々の努力をこんな話に乗って貶める必要はないだろう。

商品の作り手は商品そのものの価値のことを第一に考えて欲しい。
広告の作り手は、その価値をてらいなく伝えて欲しい。
その果てにこそ、商品の作り手と消費者の間の信頼が生まれるのではないか。
その意味でこの現状は、商品の作り手でもあり消費者でもある我々自身が作り出した不幸なトライアングルだ。
我々のCafe GIGLIOは広告掲載をすべてお断りし、リアルクチコミでお客様をご紹介いただいてきた。
その信頼を裏切らない商品を作り続けることを肝に銘じて、頑張りたい。

at 17:13, cafe-giglio, 時事放談

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